オーガニックコットンの本当の意味を知るために、 ハートさんに話を聞いてきました。
2016.08.10
リテリーオーガニックのカバーに使っているオーガニックコットンはすべて、
高知の寝具メーカー株式会社ハートさんに作っていただいています。
フランスに本拠を構える世界一のオーガニック認証機関・エコサート。
その認証を毎年受けているハートさんの大豊工場で作られる
オーガニックコットンのカバーは、本当に使い心地が良く、
肌にやさしいため、お客様にも大変ご好評をいただいています。
私たちも惚れ込んだ素材だからこそ、リテリーオーガニックに採用し、
カタログやホームページでも「100%ピュアなオーガニックコットン」と謳い、
その良さを伝えています。
でも本当のところ、オーガニックコットンの本質的な部分は
まだ私たちもきちんと理解できていない気がしていました。
なぜこれだけ市場に物があふれ良品も多く存在する中で、
わざわざ手間ひまやコストをかけて生産するオーガニックコットンがいいのか。
一般に広く流通している、農薬や化学肥料、添加物などを使用した綿花、
さらにはアクリルなどの合成繊維ではダメなのか?
オーガニックコットンやオーガニック加工品の
「良さ」だけを伝えてしまうのではなく、
オーガニックコットンやそれに対比する普通のコットン、合成繊維の事まで知ることで、
使っていただくお客様により確かな情報をお届けしたい。
そんな想いでオーガニックコットンの真実を知るために、
ハートさんが1年に1回開催する勉強会「ハート会」に合わせて、
私たちは高知に飛びました。
きっかけは、長男を救いたいという想い。
「うちの子(現在、ハートに入社され企画・広報を担当される山岡弘章さん)が6歳の時、
アレルギー性の喘息の発作で呼吸困難となり救急車で運ばれました。
一時は危篤状態にまで陥り、一命を取り留めたあともずっとアレルギーに苦しめられた。
どうにかして助けてあげたい。親なら当然そう思います。
だから数えきれないほどの本を読みあさりました。
著者の先生に会いに大学病院にも行って、さらに深く話を聞いたり。
とにかく勉強したんです。」
ハートは元々、山岡社長のお父様が布団工場として立ち上げた会社。
当初は、オーガニックではない普通のコットンや
化学繊維も使用した寝具を製造していたそう。
「いろいろ勉強していく中で、アレルギー・アトピーには
製造過程で使われる化学薬品などの添加物が悪いという事が分かりました。
そこでオーガニックコットンの原料を探し実際に無添加で寝具を作ってみると、
息子の症状が見る見るうちに良くなっていった。
オーガニック製品は、本当に良い物なんだと確信しました。」
そこから山岡さんは、思い切って完全オーガニック製品の工場へと舵を切った。
なぜオーガニック製品を作るのは大変なのか?
「一般の生地は”エアジェット織機”という空気圧で横糸を飛ばし、
超高速で織り上げていく機械で生地を織ります。
ただし、あまりに高速なため糸だけだと切れてしまう。
そこで糸自体に強度を増すための合成のりをベタベタに塗ります。
その合成のりにノニルフェノールという環境ホルモンが含まれています。
さらに高速・強圧なため織り上がった生地は目が詰まっている状態になる。」
この山岡さんの話を聞いて「Air jet loom(エアジェット織機の英訳)」で
動画検索すると、確かに想像を遥かに超えるスピードで
生地が織り上げていかれる様子がうかがい知れます。
「一方、完全オーガニックにこだわると、
昔ながらの織機でゆっくり時間をかけて織らなければならない。
時間はかかるけれども、合成のりのような添加物をそれほど必要としないし、
ほどよい圧力で織られるため、生地に適度な隙間が生じ、
汗や汚れを吸い込んだり吐き出したりする”呼吸する生地”になる。
だから大変だけどオーガニックの生地の方が風合いが良く
肌にやさしい物に仕上がるわけです。」
使う人にとっての「選択肢」を作りたい
「アトピーやアレルギーについて勉強して色々なことを知りました。
人には体質があります。
なのでどれだけ化学薬品を添加された合成繊維を使っても、大丈夫な人もいる。
逆に布団カバーの縫製の縫い糸1本化学繊維が使われているだけでもかぶれてしまう、
化学物質過敏症の人もいる。それぞれなんです。
でもアトピーや化学物質過敏症の人にとっては、
毎日眠るとき肌に触れている寝具が安心・安全な素材でできている物なのかどうかは、
安眠に関わる重要な問題です。
だからそんな人たちに、本当に安心してストレスのない
眠りを摂っていただけるよう開発したのがはじまりなんです。」
それほどまでにこだわって商品を作っている山岡さんは、
合成繊維にどんな想いをいただいているのか。
「合成繊維や化学物質を使用した製品が悪だとは思っていません。
それで大丈夫な人も大勢いるし、何よりオーガニック製品は
原料の生産にも商品の製造にも時間と労力がかかるため、
オーガニック製品だけでは地球上の60億人の需要に対して
供給が追いつきません。
オーガニック製品でなくては快適にすごせない人や、
より良い製品を求める人に選択肢として
オーガニック製品があればいいと思っています。」
厳格すぎるほどの、エコサートのオーガニック認証。
モノづくりに対する真摯な理念を実践するハート。
そんな彼女たち(ハートの社員は社長と息子さんの山岡親子以外すべて女性)
ハートの取り組みを第三者機関として認定するのが、
農水省有機認定機関のエコサートです。
「原材料の綿花を栽培する畑がどのような農場かというトレーサビリティ(生産履歴追跡)から、
さらにそれ以上に大切になる、最終の製品が化学薬品などで汚染されていないか否か、
という製品の認定まで。エコサートのチェック項目は大変厳しく、また多岐にわたります。」
数日間滞在して製品や原料、関連施設を、厳格にチェックするエコサート。
認証を受けること自体はもちろん、
そのために生産現場や製品を常に及第点の状態にし続けるだけでも、
かなりの労力と費用がかかります。
そのため、中には1年だけ受けて、翌年から過去の認証を利用し続けて
ビジネスをする会社も多いのだとか…(オーガニック認証の有効期限は1年)
「そもそも、オーガニック後進国の日本では”オーガニック=身体にいい”
”オーガニック=風合いが良い”というようなイメージが先行しがちですが、
本来オーガニックとは”環境”なんです。
使う人の身体だけではなく、地球環境も含め製造や廃棄の過程で
どこか1箇所に過度な負担をかけない。
自分たちさえ良ければ環境は壊してもいい、ではいけない。
そういう思想がオーガニックなんです。」
綿花はもちろん、農薬や化学肥料を使わず手間ひまかけて生産した
「自然のままの本当のオーガニックコットン」を、
生産者に負担がかからない正当な取引金額で
フェアトレードされたものを使用。
そしてその思想は、ハートの社内環境にまで求められます。
「たとえばスタッフの休憩所は心地よく休める空間になっているか、
という事も審査基準の1つです。
従業員20名くらいの地方の小さな会社ですが、有給消化率も100%。
そういう労働環境の向上も、エコサートの掲げる
オーガニックの理念の1つなんです。」
共存する社会をつくる、ということ。
「オーガニックの原点は”共存する”という考え方です。
例えばダニや雑菌のようなものと、太古の昔から人間は共存してきた。
布団の中のダニをゼロにすることは出来ないし、ゼロにする必要もないんです。
汚れたら洗って清潔にできればいい。
それを化学薬品や添加物を使って無理やり清潔にしても、
ダニのような生き物にとって悪い薬品が、
同じく生き物である人間に悪くないわけがない。
そういった機能性を恐怖心を煽るような宣伝文句で売るのは、僕は違うと思います。」
山岡さんの話を聞いて、オーガニックの本当の素晴らしさを
深く理解できたような気がしました。
でも言葉にすると簡単でも、実践するのは一筋縄ではいかない
オーガニックなモノづくり。だからこそ、エコサートの検査を
受け続けていると山岡さんは言います。
「結局のところ、僕はお客さんに嘘をついて物を売りたくない。
だから費用がかかってそんなに利益が残らなくても、
エコサートの基準を満たし続ける会社づくりをしています。
そうして自分たちを律していくことで、自分たちではなく第三者が
私たちのモノづくりに嘘がないことを証明してくれる。
お客さんが安心して買えて、安心して使えるモノづくりに、
これからも挑戦し続けます。」